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神の宮の島(2)

2014.09.25 (Thu)

神の宮の島(1)

それから、神は境内の授与所でお守りを買ってこさせた。
「って、なんで安産!確かに、『なんでも良いから一つ買ってこい』ゆうたが、なんで安産」
「え、だって、かわいかったし……」
「可愛ければ、何でもいいんか。おぬし、出産どころか生娘じゃろうに、なぜに安産。
バカじゃとは思っとったが、正真正銘のバカか」

そういいながらも、神は受け取ったお守りを両掌に包んで目を閉じた。
神の一員だという子どもの手のひらには大きく、指の間から紐がたらりと垂れている。
その紐が三度ほど揺れ動いたところで、神はそれを彩萌に返した。
「ほれ、うちの力を加えといた。いわゆる加護じゃ。これでうちは、いつでも彩ちゃんのそばにおる」
え、と軽く驚いた顔で彩萌は受け取ったお守りを見た。
手触りにも、見た目にも、何の変りもない、ただのお守りだ。
でもそれよりなにより、さっきまで『おぬし』呼ばれていたのに、『彩ちゃん』って呼ばれたのは気のせいだろうか。

「信じとらんね。このお守りは、もともと厳島の神の加護を受けとる。
うちの力も、ほんの少しじゃけど、入っとった。
ただそれを、彩ちゃん用にちょっと強くしただけじゃ。
見た目には何の変りもないけど、それでもこれで、うちは彩ちゃんのそばにおる」
だからそれを身近に持っておけよ、と言いながら笑う子どもの顔が、さっきとは何だか違って見える。

「えっ! だって、これ、安産のっ!」
「だーかーらー、なんで安産かぁ、言うたじゃろ。
安産守でほかの加護を受けられんわけじゃないが、彩ちゃんはそれを持って歩かんといけん。
妊婦でもない、若い娘が持ち歩くにはちと勇気のいる守護じゃけど、これが良いんじゃろ、しょうがない。
うちはなんでも良いけんね。」
「そんなあ……」
困り顔の彩萌を見ながら笑う、子どもの姿をした神は、それはそれは愉快そうに笑うのだった。



夜。
参拝時間を過ぎ、人ひとりいないはずの千畳閣の露台で、男が二人酒を交わしていた。
壮年をすぎ、老年に入ろうかというほどの歳に見えて、矍鑠とした雰囲気を漂わせる男たちは、
どちらも時代がかった衣装を身につけている。
無言で杯を重ねても重苦しい雰囲気が漂わないのは、彼らがともに過ごしてきた長い年月の賜物だろう。
彼らがここへ勧請されたのは明治になってからだが、遥か古い兵の時代を駆け抜けた仲間であり主従だ。
今さら肴になる話題を求める間柄ではない。
そこへ、小さな影が近づいていく。

秀吉がついと目を上げ、子どもの形をした神に歓迎の意を示した。
「珍しいの、お柱様がこちらに来られるとは」
「申し訳ない。今宵ばかりは、ちと心が騒ぎますゆえ、お相伴に預かりたく」
珍しいと口では言いながら、余分の杯を準備してあるところを見ると、意外どころか予想していたものらしい。
御柱様は用意されていた杯を手に取ると、秀吉の酌を受け、一息に煽った。
秀吉が言う以上に、この子ども姿の神が二人に混じるのは珍しい。

返杯を受けながら秀吉は、ふっと唇の端で笑った。
「今日は、面白そうな娘を見つけられましたな」
「よく見ておられましたな」
「あんな面白そうなものを見るなという方が無体じゃ。
いっそ儂も混ぜていただこうと出ていきかけたのじゃが、虎に散々に止められた。残念なことじゃ」

当たり前です、と清正は眼だけでかつての主君をいさめながら、御柱様に酌をつける。
「おそらく、大願寺どころか大聖院までもが興味深々で見ておったことでしょうよ。
今頃はどこも御柱様を肴に酒盛りのはずです」
 清正の注いだ酒を口に含みながら、やれやれ、とお柱様は天を仰いだ。
大願寺の大聖院のと大仰に言ったところで、廃仏毀釈の急ごしらえで出て行った元同居人だ。
実家をのぞくのに、遠慮も何もあるまい。
まして、神も仏も地獄耳に変わりはない。

「道理であちこちからの視線が痛かったはずです。
あの娘、最後まで私がほかの者に見えぬということを気付かぬまま、
大騒ぎをしておりましたから、ただびとの衆目も集めたというのに」
やれやれ、とため息をつきながら杯を煽るが、口調の割に顔はほころんでいる。
「そんなことを仰っても、顔が嬉しそうですよ。物陰にも入らずにおられたは、儂らにも見せてやろうとのお心でしょう」
 清正がそう言いながら御柱様の杯を満たす。そんな清正を、赤ら顔の秀吉が睨む。
「虎、おぬしちと黙っておれ。露骨に言うてしもうては、御柱様のお心が台無しじゃ。
儂らは同じ建物じゃから物陰でも覗かれようが大聖院からはそうはいかん。
是非とも、これからも物陰に入らず、ゆるりとお話なされよ」
「殿、儂とどっちが露骨かようわかりません」
男二人は、大声で笑い出してしまった。
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15:40  |  小説(神の宮の島)  |  Trackback(0)  |  Comment(0)

神の宮の島(1)

2014.09.25 (Thu)

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
彩萌(あやめ)の奇声が千畳閣に響き渡った。

ここは、広島県廿日市市宮島町。
世界遺産にも登録された厳島神社を有する、日本屈指の観光地だ。
奇声が響き渡った千畳閣も、朱塗りの建物の外とはいえ『豊国神社』という正式名称をもつ、
由緒正しい厳島神社の末社である。
当然、本殿ほどではないにしても、それなりに観光客がいる。
千畳閣の別名に恥じぬ広さを持つこの建物なら、子どもが歓声を上げて走り回っていそうなものだが、騒いでいるのは彩萌一人で、他の面々は遠くから冷たい視線を投げてよこすだけだ。
なのに、彩萌はそんな視線を気にする余裕もない。

ぼうっとしてはいた。
上の空でもあった。
でも、突然自分の腕の中に人が現れて、びっくりしない人はいない。たとえその相手が、子どもでも。
そういうわけで、彩萌には驚いて大声を出すよりしようがなかったわけだ。
突然現れた子どもは、驚いて飛びのいた彩萌に向かってにっこりと笑うと、
「我を呼ぶは、お主か」
と声をかけて、柱からゆっくりと出てきた。
突然あらわれただけでも十分驚くというのに、この子どもときたら、
大人の胴より太い柱から上半身を生やした状態で彩萌に話しかけてきて、
さらには、その柱から巫女装束の全身を抜き出して、彩萌に向かって近寄ってくるのだ。
これを怪奇現象と言わずになんという。

彩萌の頭の半分は『逃げろ。全力で、回れ右』と命令するのに、
残りの半分では『ドラえもんの道具にこんなのあったよね』とぼんやりと見ている。
あまりに現実離れしたことが起きると、脳の回線はショートするらしい。

「名は」
 茫然自失の彩萌の様子に構わず、巫女装束の子どもは言う。
「え……なは?縄?那覇?」
頭の中の辞書を高速検索した挙句に、やっと『名は?』と聞かれたことに気付いて、声を絞り出す。
「せ……せがわ……あやめ……」
知らない人に簡単に名前を教えてはいけません、とか何とか、
そんな理性はとっくにはるか彼方にとんでいて、口からこぼれでた自分の名前も、
何だか知らない人の名前みたいだった。
なのに、その子どもと来たら、彩萌の名前を聞いて本当に嬉しそうに、人懐こく笑った。
「せがわ、あやめ、か。懐かしい名前だな……」

あ、意外にカワイイ。
妖怪変化の笑い顔は彩萌の隣家に住む小学生と同じで、妖怪だろうが人間だろうが、
子どもの顔は一緒なんだな、なんて思った。
そういう彩萌だって、高校生なのだから、世間一般的にはまだまだ子どもなのだけど、
そんなことを思ったら、怖さも半減するのだから、不思議なものだ。

「そうよ、瀬川彩萌。アンタは?」
「うち?」
「そうよ。子どもでも妖怪でも、名前くらいあるんでしょ」
何故か子どもは、とても奇妙な顔をして彩萌を見た。
「まあ、うちはこんなナリをしとるし、子どもには違いないんじゃが……妖怪じゃないで。
一応、これでも神のくくりには入っとる」

その困惑した顔が余計に子どもっぽく見えて、最初の怖さも薄れていく。
しかも、最初のきつい口調とは反転した、ベタベタの方言だ。
彩萌だって広島に生まれ育った者として方言ぐらい分かるけれど、
高校生ともなると自分のことを『うち』なんて言ったりしない。
やっぱり子どもだ、子ども。

「いやー、どう見たってさっきの登場はバケモンだし。胡散臭さハンパないんだけど」
相手の口調に引きずられて砕けた口調で返した彩萌の言葉に、
何だか子どものガックリ度が倍増した気がする。
すっごくする。

「おぬしな、ここをどこだと思っとるんじゃ」
「……宮島……?」
「そう、宮島!宮島は島全体が宮じゃから、宮島なんじゃ!そんな神域に妖怪変化がおるもんか!」
くわっとすごい口調で力説する子ども……が、残念ながら、子どもがムキになって主張する姿って、
余計かわいくて笑えてくるのだからどうしようもない。
あーはいはい、と彩萌は笑いにひきつる口元を手で覆い隠した。
やばい、この子ども、かわいすぎる。

「んじゃ、妖怪変化じゃなくて、神様ちゃん」
「あほう。ここは島全体が神様の集合住宅みたいなもんじゃ。
神様なんぞ、うじゃうじゃおる。『神様!』なんて呼びかけたら、
絶対に誰も自分の事だと気付かんわい。
そもそも『神様ちゃん』とは何じゃ!そんな呼び方あるか!」
「わかったわかった。わかったから、アンタの名前教えなさいよ」
「うちは『御柱様(おはしらさま)』と呼ばれておる」
「なーんか、呼びにくい名前……そうねえ……『はっちゃん』で良い?」
「はっはっ『はっちゃん』―――――――!??」
「あたしも『あやちゃん』で良いからさ」
「そ、単純でしょ、彩萌、のあやちゃん。よろしくね、はっちゃん」
そう言って、彩萌は子どもの肩をぽんっと叩いた。
肩を叩かれた子ども、はっちゃんことお柱様はと言えば、
さほど強くたたかれたわけでもないのに、ぐったりと座り込んでしまった。

「えっえっ、ごめん、痛かった!?」
彩萌は慌てて子どもの前に座り込んで、目線を合わせた。
隣の小学生もよくこうやって座り込んでは、彩萌がうろたえて覗き込むのを待っている。
それでおいて、ばあっと満面の笑顔を見せたりするのだ。
ところがこの子どもは、はああああっと長い溜息をついて、どっかりと床に座りなおした。
「まあね、そんな人間だっておるよね。
うちだって、神様ったって名ばかりで、神位も持ってないヒラだしね。そもそも子どもだしね。」
なんだか言うことが卑屈で嫌味っぽい。
こんなのが神様で良いのか、と一瞬彩萌は思う。
やっぱり、妖怪変化でないのなら、ただの子どもだと思う。
あまりの態度にあっけにとられるしかない。

「まあ、落ち着きんさい」
どこまでも長い溜息を吐ききって、子どもが言う。
落ち着くのはお前だろ、とツッコミを入れたいのを我慢して彩萌が正面に座り直すと、
御柱様と名乗る子どもは彩萌に向き直って背筋を伸ばした。
「我は神位も何も持たぬ、巫女のなれの果てじゃ。
じゃが、一応、神のくくりには入っておる。
願いを成就させるもさせぬも、人の成すことじゃが、
祈念によって我の加護をうることは出来る。
人間。
お主が何を望んで我を呼び出したるか、語るがよい」
ぴんと端坐するさまは、先ほどまでのどこにでもいる子どもではない。
今さらのように、彩萌はどぎまぎと目線を落とした。

「ええっと……言われてることが良くわかんないんだけど……。
つまりはっちゃんは、本当に神様なの?」
「最初っからずっとそう言うとる!」
「で、あたしの願い事を叶えてくれるの?」
「おぬしな、何を聞いとった。
願いを叶えるも叶えぬも、お前の勝手にすることじゃ。
神に向かって柏手を打ちさえすれば願いが叶うなんてことが、あるもんか。
柏手ひとつで叶う願いなんぞ、その程度のもんじゃ」
「じゃあ、はっちゃんは何をしてくれるのよ」
「うちはあくまで手助けじゃ。
努力じゃどうにもならんめぐり合わせ、運気、そういったもんの流れを、ほんの少し良くするだけじゃ。
お主の歳じゃまだ少ないかもしれんが、もしあの時出会ってなかったら、
という物事や人物が、人生には幾度となくある。
こればかりは本人の努力ではどうしようもないもんじゃけえの。うちらの領分じゃ」

ふうん、と彩萌は考え込んだ。
「つまり、テストで良い点を取るにはあたしがうんと勉強しなくっちゃ駄目だけど、
得意なトコがたまたま出るくらいのヤマアテははっちゃんの領分ってこと?」
「例えは悪いが、そういうことじゃな。
しっかり勉強しとれば、そもそも得意なところが多くなる。
それが、自分で運を引き寄せる、ゆうことじゃ。
じゃが、得意なところの中でも、これだけは絶対、みたいなところをぴっちり嵌めるのはうちらの領域。
それは自分で出来ることを果たして、自分で引き寄せられる運は引き寄せた上、そのさらにその上、神の領域じゃ」

彩萌は再び黙り込んだ。
正直、自分にそんな願いはない。
はっちゃんは、何か願い事があって自分を呼び出した、みたいなことを言っているけれど、彩萌にはそんなつもりはない。あくまで、突然、不意に、彩萌の前に出てきたのだ。
彩萌の思いとは全く関係なく。
だとしたら、彩萌とこの神との出会いは、何の意味を持つんだろう。

「ねえ、はっちゃん。あたし、一つだけ、はっちゃんに頼みたい」
「うん?」
「あたしね、そんな自分の限界まで頑張るような願い事なんてないんだけどさ。一個だけ、聞いてよ」
「なんじゃ?」
「あたしの友達になってよ」
お柱様と呼ばれる神は、端坐したまま軽く目を見開いた。
「はっちゃん、さっき言ったじゃん。
もしあの時出会ってなかったらって出会いが、人生にはいくつもあるって。
あたし、はっちゃんとの出会いがその一つじゃないかなって思うんだ。
だって、あたし、はっちゃんのこと、呼び出してないもん。
なのに、はっちゃんはあたしの前に現れたんだからさ。
きっと何かあるんだよ」

それを聞いた神も、しばらく考え込んでいた。
自分は、この柱に宿る神だ。
こんな子どものなりで、誰も祝詞を捧げてくれる者もいないが、それでもここを守ってきた。
このなりで生きるようになって月日が経つ感覚が無くなってしまったけれど、
考えてみれば、前に自分が呼び出されて加護を乞われたのは洋装が珍しかった頃だ。
今さら、ちゃんと願文を立てて加護を乞われたとは思えない。
それでも、自分は間違いなく、この娘に呼ばれた。この娘に呼ばれたから、こうやって出てきたのだ。

「そうじゃな。うちは確かに呼ばれた。
確かにおぬしに呼ばれたから出てきたんじゃ。
なのに、おぬしにそんな様子は無いし、呼び出してないという。
それなら確かに、何かあるんじゃろうよ。今のうちらには分からん、何かがね」
 そういって、ふっと笑った。

テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

15:34  |  小説(神の宮の島)  |  Trackback(0)  |  Comment(0)
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